こんにちは!

今回は、最高裁判所 平成30年10月19日 第二小法廷判決について見ていきたいと思います。

この判決は、共同相続人間での無償による相続分の譲渡が民法903条第1項に規定する「贈与」に当たると判断しました。

まず、事案の概要から見ていきます。

約10年前にお父さんBがなくなり、その6年後にお母さんAが亡くなったというものです。
二つの相続が問題となっている事案です。
この夫婦には3人の実子(C・上告人・被上告人)と養子縁組をした被上告人の妻Dの合計4人の子供がいます。

父Bがなくなった時点で、法定相続分は、母Aが2分の1、子ら4名が8分の1ずつです(1/2×1/4で1/8)。

この父Bの相続に関し、母Aと被上告人の妻Dは、被上告人に「相続分の譲渡」を行いました。
「相続分の譲渡」とは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分を譲受人に移転させるものです。
個別の財産を譲るものではありません。

これで、相続分は、被上告人は8分の6、Cと被上告人は8分の1ずつとなります。

そして母Aはその2年後に、その有する全財産を被上告人に相続させる旨の公正証書遺言をしました。

そしてさらにその2年後に母Aは亡くなりました。
母Aは、その相続開始時において、約35万円の預金債権を有していたほか、約36万円の未払介護施設利用料債務を負っていました。

その後、上告人は、被上告人に対し、母Aの相続に関して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をしました。
母Aの相続について、上告人の相続分は4分の1です。
その半分を、被上告人から返してもらいたいという意思表示を行ったということです。

ここで問題になるのが、

遺留分減殺請求の対象になるのは、

①母Aが亡くなった時点で残っていたわずかな財産だけなのか

それとも、

②母Aが被上告人に無償で譲渡した相続分も計算に入れるのか

ということです。

上告人の言い分は、
「お父さんの相続のときに、被上告人はお母さんから相続分を譲ってもらっている。
これは被上告人に対する「贈与」に当たるので、遺留分減殺請求の計算に入る!」
というものです。

被相続人が生前贈与した財産がある場合、生前贈与された財産は、被相続人の相続開始前の一年間に贈与されたものに限り遺留分減殺請求の対象となるのが原則です(民法第1030条:前段)。

しかし、贈与者である被相続人と贈与の受贈者とが共に、遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき、相続開始前の一年以内に贈与された財産以外の財産も遺留分減殺請求の対象となります(民法第1030条:後段)。

また、受贈者が相続人であり、当該贈与が特別受益にあたる場合には、贈与された財産は原則として遺留分減殺請求の対象となるとするのが判例の考え方です(最高裁判所平成10年3月24日判決)

以上の事案について、原審の高等裁判所は、上告人の主張を受け入れませんでしたが、
最高裁判所は、上告人の主張を採用しました。

≪最高裁判所 平成30年10月19日 第二小法廷判決≫

共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し,相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。
そして,相続分の譲渡を受けた共同相続人は,従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり,当該遺産分割手続等において,他の共同相続人にし,従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることができることとなる。
このように,相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる。遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは,以上のように解することの妨げとなるものではない。
したがって,共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。
以上と異なる見解に基づき,本件相続分譲渡はその価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与に当たらないとして上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

今回の判例は、第二の相続が発生した場合の遺留分減殺請求や遺産分割において問題となる事柄なので注意が必要です。

今回はここまでにしたいと思います。